IQOSやvapeの長期の害を見積もる

長期のIQOSなどの害を見積もる

さて、以前にIQOSなど加熱式タバコの長期の害が不明だと書いたが、全く何もわかっていない訳ではない。 そのような論文があるので紹介する。 それによると、紙タバコと比較するとIQOSの発がんリスクは2.4%、vapeのリスクは0.4%です。 どのようにこの数字が出てきたのかを検証する。

https://tobaccocontrol.bmj.com/content/27/1/10

これは、tobacco control にしてはよく出来ている論文。著者は公衆衛生の専門家でタバコだけをやっている人ではない。 かつ、アメリカではなくイギリスの大学。不満はtobacco control だけ。

癌リスクは見積もることができる

癌のリスクは以下の式で見積もれる

(癌リスク) = Σ (化学物質の癌リスクの強さ) x (暴露量 or 吸収量)

化学物質の癌リスクの強さ、は安全衛生の機関などが発表しているためそれを使用する。 紙タバコ、IQOS、vapeの3者で1日あたりの平均量を考慮する。 紙タバコは13本(22カ国), 14本(US), 12本(UK)を考慮して15本とした。 IQOSは10本(JP), 17本(PO)。 vapeは蒸気 30L を1日で吸入することとした。(22人の被験者の平均は29.7L)

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リスクの内訳

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平均生涯がんリスク、紙タバコ、加熱式タバコ、vapeの比較

これが見たらわかるのですが、紙タバコと比較するとIQOSの発がんリスクは2.4%、vapeのリスクは0.4%です。 IQOSですら発がんリスクはとんでもなく低い。

これはトンデモ科学ではなく、現時点で人類が得ている癌に関する知見を総合するとこのように考える以外にありません。 これ以外の結論になった人は何か変な仮定やバイアスに影響されていると言っても良いです。 癌に関しては、他の化学物質に関する相乗効果という事はあまり影響がない(そのような例がさほどない、現時点でそのような理由で規制するのは非合理的)ためです。

喫煙に詳しい人は、アスベストと喫煙が相乗効果で癌のリスクを増すという事を聞いたことがあるかもしれませんが、2012年であっても根拠やどの程度影響を与えるのか?という具体的な数値が不明です。 https://core.ac.uk/download/pdf/59315069.pdf これは、アスベスト被爆した喫煙者の肺がん罹患が因果関係を争った裁判の記録なのですが、専門家の意見としてK、Bの意見が記されてます。 Kの意見では「肺がんの原因である確率は、喫煙が67%、アスベストが3%、アスベストと喫煙の合併が20%、喫煙でもアスベストでもないものが10%」 Bの意見では「喫煙が92%、アスベストが0.1%、喫煙とアスベストの合併が0.9%、バックグラウンドリスクが7%] このように、リスクを数割増やす事があるかもしれませんが、元のリスクの数倍ということにはなっていません。 それほど高いリスクかつ危険であるならすぐに統計にでるでしょう。

もう一度書いておきますが、これ以外の考え方が現実に可能かどうか?無理でしょう。 つまりこのような証拠があるにもかかわらずIQOSやvapeが発がんリスクが紙タバコと同程度に高いという主張をする人は要注意で、癌やリスクに関して理解度があまり高くないため根拠を聞いた方が良いです。

IQOSが発がんリスクが不明な化学物質を出している、というような主張をするかもしれませんが意味がありません。 強い発がん性を持つ化合物は既に調べられていますし、人間の身の回りのほぼ全てが発がん性物質です。 空気にすら発がん性物質が含まれていますし、哺乳類が発がん性物質を日々生産しています。例えば、内因性ホルムアルデヒドなどがあります。そのため、近年はリスクの推定が発達し、多くの化合物の中からよりハイリスクの物質を効果的に規制するという方向になっています。 発がん性=規制は科学が遅れていた限られたリソースで取れる手段だっただけです。今ではそれをやらないように(効果的ではないし、人間を取り締まるなど不可能なため)しています。 発がん性物質はありふれすぎている上、危険なものはすでに洗い出したため国際がん研究機関(IARC)は発がん性物質として加工肉を選定しました。

癌リスクの大きさを評価する

さて、紙タバコの2.4%のリスクは具体的にはどの程度なのだろうか? https://acsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.3322/caac.21440 これは、アメリカ癌協会の出した2018年の論文で、癌の死者、患者の原因のランキングを出している。 以下に示すのは癌の患者数で死亡者数では無い。 日本とアメリカでは肥満率が違うがそこはそれ込みで評価してほしい。 日本でのこのような数字が見当たらないため。

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男女別癌のリスク
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男女合算の癌リスク

これを見ると、喫煙(19.0%)、肥満(7.8%)、飲酒(5.6%)、紫外線(4.7%)、運動不足(2.9%)、野菜不足(1.9%)、食物繊維不足(0.9%)、HPVへの感染(1.8%)、加工肉(0.8%)、牛肉、豚肉(0.5%) … カルシウム不足(0.4%)、副流煙(0.4%) … となっている。 IQOSの癌リスクは、0.45%となり、肥満の1/15以下、アルコールの1/10以下、加工肉の半分程度、牛肉、豚肉、カルシウム不足と同レベルになる。 IQOSの副流煙はさらに小さく、暴露量として1/50として(相当濃い副流煙ですが)も、0.009%となる。 統計的に出てこないリスクになっているので実証されることはないでしょう。

vapeではよりすごい結果になり、0.076%となり肥満の1/100以下。これもリスクが低すぎて統計的にはわからないレベルです。 vapeの副流煙は空気で希釈されていますから更に癌リスクが下がります、vapeの副流煙で癌になるという主張は無理ですね。

この資料が出たついでに記しておくと、アメリカ癌協会ですら、アメリカで人口の5%程度が使用している噛みタバコや、大麻喫煙(5%が使用)を癌のリスクがあるとは考えていないということです。

噛みタバコは現実的には癌になっていません。発がん性の物質は含まれているのですが濃度が低すぎて癌になりません。 また、使用形態が似ている大麻の喫煙は人口の5%程度が行っていますが、これも癌になっていません。 他にもアメリカ国民の数%の人口が行っている行為、かつ、この表に記載されていない行為は癌になりません。 同じタバコでも使用形態によって、また煙の成分が違うと発がんリスクが大きく異なる良い例です。 なお、アメリカ癌協会のサイトには噛みタバコは癌リスクがあると書かれていますが根拠が曖昧であるため少し危険です。

税制に関する懸念

さて、私が怒っているのは、このような癌リスクを推定する事が可能であるにもかかわらず、一番安いタバコ製品がリトルシガー(270円~360円)となっておりIQOSの470円と大きな開きがあることです。 市場で一番高リスクかつ監視が必要である燃焼させる製品が税制的に優遇されており、1/40のリスクであるIQOSに高いたばこ税を課す意味がわかりません。 これは間接的に国民の健康を害しています。価格差があればあるほど乗り換えが進むため、価格差を意図的に無くしている場合は乗り換えを阻害しています。 これは闇しか感じない税制。

スウェーデンでは低リスク商品であるsnus(噛みタバコ)が盛んで、24ポーチで300円程度(3ユーロ程度)、一方、紙タバコは700円(6ユーロ程度)になってて危険性と価格がきちんと対応しています。 当然、スウェーデンの喫煙率はEUで最も低い。効果的な政策とはこういうことです。

マジな話、日本の研究者たちは何を考えてるんだろうか?